Half Moon 3 ■

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彼女は店の入り口が面している通りをゆっくり歩いていた。
その夜は満月で,月の光で彼女の足元には長い影ができていた。
「ミエット」
俺が呼ぶと彼女は立ち止まって振り返った。
月の光を背にしたその姿があまりにも美しくて,
触れたら壊れてしまうんじゃないかと俺は思った。
俺が彼女に追いつくと,彼女は自然に自分の腕を俺の腕に回した。
そのまま俺達は黙ったまま夜の街を歩き,途中の小さな公園で見つけたベンチに並んで腰掛けた。
2人で並んで座ったまま,俺達はとりとめのない話をした。
俺は妙に饒舌になっていて,家のことや少年時代のこと,
変人と呼ばれている同僚のこと,よく壊れる券売機のことなど,
はじめは会話だったのに,やがて俺が一人でしゃべっていた。
会話がとぎれると,そのまま終わってしまいそうな気がした。
「ごめん,なんか俺ばっかりしゃべっちゃて・・・」
「ううん,いいのよ。あなたのまわりって楽しそうね。
私なんて,おしゃべりできるようなことなんかないんだもの。」
「そんな楽しい訳じゃないよ」
俺は仕事のことを思い出して少しだけ憂鬱になった。
「一生モグラみたいに地下で働くのかと思うと,ゾッとする」
「本当は他にやりたいことがあるのね」
彼女は微笑みながら言った。
彼女の知性をたたえた翠の瞳は,何でも見透かしているかのようだ。
「でも・・・」
俺はもごもごと口ごもる。
「あなたがあと少しだけ勇気を持つなら,何にだってなれるはずよ。
・・・あなたがうらやましいわ,フィリップ」
彼女は潤んだ瞳で俺を見上げた。
彼女の腕が俺の頬に伸びる。
彼女の唇が俺の唇をとらえる直前に,俺は彼女を抱きしめた。

 

- to be continued ! -

 

*** *** ***

- ambivalence - 

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